「伝統的(古典)占星術」には、エッセンシャル・ディグニティという概念があります。
伝統的(古典)占星術では、吉凶を明確に判断する必要があったため、天体の「良し悪し」は非常に重要な概念とされていました。
ところが、現代占星術では、心理分析のツールとして扱う傾向が強まり、天体の良し悪しはさほど重要視されず、辛うじて一部が引き継がれているような状態です。
「現代占星術」でも使われているもの ドミサイル・エグザルテーション・デトリメント・フォール |
「現代占星術」では使われていないもの トリプリシティー・ターム・フェイス |
今回は、現代占星術に引き継がれたエッセンシャル・ディグニティの要素が、どのように活用されているのかを見ていきたいと思います。
エッセンシャル・ディグニティとは?
まずは言葉の意味から確認してみましょう。
・エッセンシャル(Essential)=本質的な
・ディグニティ(Dignity)=品位・威厳
天体が特定のサインに在る時に備わる“本質的な品位”─それがエッセンシャル・ディグニティです。
伝統的(古典)占星術では、1つのホロスコープ内での天体の優位性を図るテクニックとして使われていました。
一方、現代占星術では、天体がそのサインに在ることで、その力がどのように働きやすくなるのか――その傾向や癖を示すものとして捉えられています。
ただ、言葉だけではピンとこないかもしれませんので、以下の表をご覧ください。
※トリプリシティー・ターム・フェイスは省略しています。
サイン | ドミサイル (ルーラー) | エグザルテーション (高揚) | デトリメント (障害) | フォール (落ち込み) |
牡羊座 | 火星 | 太陽 | 金星 | 土星 |
牡牛座 | 金星 | 月 | 火星 | – |
双子座 | 水星 | – | 木星 | – |
蟹座 | 月 | 木星 | 土星 | 火星 |
獅子座 | 太陽 | – | 土星 | – |
乙女座 | 水星 | 水星 | 木星 | 金星 |
天秤座 | 金星 | 土星 | 火星 | 太陽 |
蠍座 | 火星 | – | 金星 | 月 |
射手座 | 木星 | – | 水星 | – |
山羊座 | 土星 | 火星 | 月 | 木星 |
水瓶座 | 土星 | – | 太陽 | – |
魚座 | 木星 | 金星 | 水星 | 水星 |
トランスサタニアンが発見される前に作られた概念なので、このようになっています。
現代のルーラーシップに合わせた解釈もありますが、今回は説明の流れを優先して、古典的な対応関係のままで進めていきます。
「障害」って何?なんだか怖い─安心してください
表を見て、「えっ、私の金星ってデトリメント(障害)なの?なんだか怖い…」と感じた方もいるかもしれません。
でも、心配しなくて大丈夫です。その仕組みを知れば、決して怖がるようなものではないことが、きっとわかっていただけると思います。
エッセンシャル・ディグニティの種類と特徴
ドミサイル(ルーラーシップ)
天体には「本来の居場所」があります。
これは太陽と月を中心に、シンメトリーに天体が配置される古典的な考え方に基づいています。
本来の居場所にいる天体は良くも悪くも特性が、ストレートに発揮されます。
例:牡羊座の火星
火星が自分のホームにいる状態。
火星が本来的に持つ、”行動力・攻めの力”が純度100%で発揮され、迷いなく前進できる。
「やるべきことを、即座にやる」力が自然に湧き上がってくる配置。
ただし、勢い余って、周囲の状況や他者の感情を顧みずに突き進んでしまう危うさも孕んでいる。

エグザルテーション(高揚)
伝統的な天体にはエグザルテーションとなるサインがあります。
天体とサインの性質が調和することからきているそうで、その特性が絶妙な形で発揮されます。
つまり、「超絶いい感じ」に発揮される配置です。
(例)牡羊座の太陽
太陽が持つ意志のエネルギーが、勢いよく前へ進む形で発揮される。
人生を自ら切り拓こうとする意志の力が強く、挑戦的な姿勢が際立つ。
「恐れず進む」ことが生き方の軸になる。

デトリメント(障害)
本来の居場所から反対のサインという居心地悪い場所がデトリメントになります。
そのため、天体が本来持つ力とは違うちぐはぐなやり方で力を使わざるを得ないような傾向が出てきます。
(例)天秤座火星
火星が本来的に持つ、”行動力・攻めの力”が、周囲との調和や関係性のバランスを保とうとする意識によって、スムーズに行動できない。
「動きたいのに、周りを気にしてしまう」というような、力の出方にズレが生じやすい配置。

フォール(落ち込み)
エグザルテーションの反対のサインがフォールとなります。
天体とサインの性質が不調和なため、天体の本来の力が弱まって特性を発揮しづらい傾向が出てきしかしその不調和さゆえに、天体やサインのテーマを過剰に表現しすぎてしまうこともあります。
例えるなら、言葉の通じない異国で周囲から無視され孤立しているような状態。
その疎外感から、「自分はここにいる」と過剰に主張するような振る舞いが現れることもあるのです。
抑えられた力が、別の形で極端に現れることもある──そんな“扱いの難しさ”がフォールの特徴です。
(例)天秤座太陽
調和やバランスを重視するがゆえに、太陽に示される意思の力は“自分発”ではなく、“他者との関係性”によって発揮される。
そのため、優柔不断に見えることもあるが、それは関係性を丁寧に考慮するがゆえの揺らぎ。
これは弱さではなく、関係性を通じて意志を発揮するという在り方。
自分らしさを、他者との関わりの中で探っていく配置です。

なんとく雰囲気を掴めたでしょうか?
エッセンシャル・ディグニティのまとめ
私は、牡羊座金星(デトリメント)の金星を持っています。
牡羊座金星は、現代占星術では「ターゲットを追いかけている時が一番楽しくて、振り向かれたら興味をなくす」─まさに、生粋のハンターのような性質だと言われたりします。
草食系が多いと言われる世の中では、むしろそのくらいガッツがあった方がちょうどいいのかもしれない、と感じることもあります。
けれど、金星は本来“受け取る力”を持つ天体。
女性原理を象徴し、差し出されたものを受け入れる性質を持っています。
デトリメントにある天体は、その本来の力を違うやり方で使わざるを得ない傾向が出てきます。
金星が牡羊座にあるとき、その“受け取る力”は、牡羊座の支配星である火星のように、“自ら獲得しに行く”振る舞いへと変化していきます。
その結果として、本来なら黙っていても受け取れるものですら、自らの振る舞いによって取りこぼしてしまうような事態になりやすいのではないかと思います。
“慌てる乞食は貰いが少ない”ということわざがあります。
焦って欲張る乞食は、施す人にその欲深さを見透かされ、かえって貰い分が減ってしまう──牡羊座金星を見ると、ついこのことわざが思い浮かんでしまいます。
あるいは、スープをよそってもらうのに、お椀ではなくスプーン──しかもすくう面ではなく、背のほうを上にして差し出してしまうような感じでしょうか──そんな前のめりなちぐはぐさが、牡羊座金星にはあるように思います。
「現代占星術」において、エッセンシャル・ディグニティとは、吉凶や天体の良し悪しではなく、天体がそのサインで本来持つ力を発揮しやすいか否かを表しているにすぎません。
ただ、その天体の力を発揮しようとするときに、ちぐはぐな使い方になってしまうことがあり、
現代的な解釈ではポジティブに語られることもありますが、正直なところ、本質的なちぐはぐさやズレは、やはり存在しているのだと思っています。
でも、そういったちぐはぐさやズレこそが、その人自身の“かけがえのない魅力”になります。
それは、誰かと比べる必要のない、その人だけの個性の輝きなのではないでしょうか。